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大阪高等裁判所 平成10年(ネ)3418号 判決 2000年8月24日

大阪府<以下省略>

亡X1訴訟承継人

第三四一九号事件控訴人

X2

右同所

亡X1訴訟承継人

第三四一九号事件控訴人

X3

大阪市<以下省略>

亡X1訴訟承継人

第三四一九号事件控訴人

X4

大阪府<以下省略>

亡X1訴訟承継人

第三四一九号事件控訴人

X5

右四名訴訟代理人弁護士

片岡利雄

兵庫県<以下省略>

第三四一八号事件被控訴人兼

X6

第三四一九号事件控訴人(以下「第一審原告」という。)

神戸市<以下省略>

第三四一九号事件控訴人(以下「第一審原告」という。)

X7

右二名訴訟代理人弁護士

片岡利雄

田端聡

松田繁三

東京都<以下省略>

第三四一八号事件控訴人

野村證券株式会社

兼第三四一九号事件被控訴人(以下「第一審被告」という。)

右代表者代表取締役

横浜市<以下省略>

第三四一九号事件被控訴人(以下「第一審被告」という。)

Y1

右二名訴訟代理人弁護士

高坂敬三

辰野久夫

主文

一  (第三四一八号事件)

第一審被告野村證券株式会社の控訴を棄却する。

二  (第三四一九号事件)

原判決を次のとおり変更する。

1  第一審被告らは各自、控訴人X2に対し、金四〇五万七七七四円、控訴人X3、同X4及び同X5に対し、各金一三五万二五九一円、並びに右各金員に対する平成三年五月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  第一審被告野村證券株式会社は第一審原告X6に対し、金二二〇九万六九〇六円、及びこれに対する平成三年一二月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  第一審被告野村證券株式会社は第一審原告X7に対し、金一七二万三七三一円、及びこれに対する平成六年一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  控訴人X2、同X3、同X4及び同X5のその余の請求並びに第一審原告X6及び同X7のその余の請求を、いずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じ、控訴人X2同X3同X4及び同X5に生じた費用の二分の一を第一審被告らの負担とし、第一審原告X6に生じた費用の二分の一を第一審被告野村證券株式会社の負担とし、第一審原告X7に生じた費用の一〇分の一を同被告の負担とし、その余は各自の負担とする。

四  この判決は、二項1ないし3に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一申立

一  第三四一八号事件

1  原判決中、第一審被告野村證券株式会社(以下「第一審被告会社」という。)敗訴部分を取り消す。

2  右取消部分にかかる第一審原告X6の請求を棄却する。

二  第三四一九号事件

1  原判決を次のとおり変更する。

2  第一審被告らは控訴人X2に対し、連帯して、金七〇九万五六九七円、及びこれに対する平成二年七月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  第一審被告らは控訴人X3に対し、連帯して、金二三六万五二三二円、及びこれに対する平成二年七月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  第一審被告らは控訴人X4に対し、連帯して、金二三六万五二三二円、及びこれに対する平成二年七月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5  第一審被告らは控訴人X5に対し、連帯して、金二三六万五二三二円、及びこれに対する平成二年七月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

6  第一審被告会社は第一審原告X6に対し、金五一〇四万六〇五三円、及びこれに対する平成二年九月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

7  第一審被告会社は第一審原告X7に対し、金二六一八万三八一二円、及びこれに対する平成三年七月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

8  仮執行宣言

第二事案の概要

原判決事実摘示(第二事案の概要)のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決七頁七行目の次に、改行のうえ次のとおり加える。

「 なお、第一審原告X1は、平成一一年○月○日に死亡し、妻である第三四一九号事件控訴人X2が二分の一、子である同事件控訴人X3、同X4及び同X5が各六分の一ずつ相続によりその権利を承継した。」

理由

一  事実経過

前記争いのない事実及び証拠(各項の末尾に掲記)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  第一審原告X1関係

(一)  第一審原告X1の属性、投資経験等

第一審原告X1は、大正一一年生まれであり、平成二年一月当時、六七歳であった。同原告は、平成五年ころまでa株式会社(以下「a社」という。)の、平成元年ころまでb株式会社(以下「b社」という。)の各右代表取締役の地位にあり、平成元年ころには、少なくとも三、四〇〇〇万円の年収がある資産家であった。

同原告は、昭和五八年ころより、第一審被告会社の難波支店、堺支店及び大阪支店において、同原告、a社及びb社の各名義による取引口座を開設し、現物株式、転換社債、投資信託、債券等の売買を内容とする外国証券を含む証券取引を始めた。右証券投資の資金には、同原告及び右各会社の余剰資金が充てられ、平成元年一二月ころの第一審被告会社に対する投資総額は、同原告個人の名義で約四、五〇〇〇万円、a社名義で約五、六〇〇〇万円であり、同原告は一度に五〇〇〇万円の投資をしたこともあった。右取引において、同原告は、第一審被告会社担当者と相談してその助言に従った結果損失を受けるという経験もしており、また、約一一〇〇万円の投資をして、約四か月間で五〇〇万円以上の損失を受けたこともあった。

同原告は、基本的には第一審被告会社担当者から勧誘された商品を購入していたが、自ら銘柄を指定して取引をすることもあり、自発的に株式のいわゆる「ナンピン買い」をしたこともあった。なお、同原告には信用取引の経験はなかった。

同原告は、新聞や、第一審被告会社から購入した「ファミコントレード」を通じて株価の動きを把握しており、堺支店にも度々訪れて、第一審被告会社から野村総合研究所の情報資料や会社四季報を入手し、あるいは第一審被告会社主催の講演会に出席するなどして、自らの取引の参考にしていた。また、同原告は、第一審被告会社から送られてきた書類には目を通し、必要なものは綴ることを習慣としていた。

(甲イ一、乙イ一、二の1ないし3、三、四、一八、第一審原告X1本人、第一審被告Y1本人)

(二)  本件ワラント取引に至る経過

第一審被告Y1は、平成元年一一月に第一審被告会社堺支店に転勤となり、前任者から引継ぎを受け、第一審原告X1の担当者となった。第一審被告Y1は、ベルリンの壁の崩壊等の世界情勢を受けて、第一審原告X1に対し、ドイツ株等の購入を勧誘し、同原告は、平成元年一二月二七日にa社名義でジャーマニーファンドを二一二三万六三二五円で、平成二年一月五日に同社名義でジーメンス株を二五八七万九二一八円で、同月九日に同原告個人の名義でダイムラーベンツ株を一四七四万八三一四円で、それぞれ購入した。右のうち、ジャーマニーファンドは、第一審被告Y1の助言もあったが、同原告の指示で平成元年一二月二九日に売却され、五六一万七七七一円の利益を出した。なお、その後、第一審被告Y1が同原告に対し、ジーメンス株等の追加購入を勧めたところ、同原告は、値段が高いのではないかと言い、購入を断ったことがあった。

また、同原告は、平成二年一月一二日、ダイムラーベンツ株の受渡しの際、外国証券取引口座設定約諾書(乙イ五)に署名捺印し、第一審被告会社に提出した。

(乙イ三ないし五、一七、第一審被告Y1本人)

(三)  ワラント取引における勧誘及び説明内容等

(1)① 平成二年一月一一日の夕方、第一審被告Y1は、第一審原告X1の自宅に電話し、三井物産ワラントの購入を勧めた。これに対し、同原告は、「ワラントは分からないからいらん。」と述べて断った。第一審被告Y1は、三井物産ワラントが外国証券であること等の概括的な説明はしたが、ワラントの特質等について具体的な説明はせず、同原告もその説明を聞く態度ではなかった。

翌一二日午前一一時ころ、第一審被告Y1はa社に電話したが、第一審原告X1は会議中であった。第一審被告Y1は、電話に出た同原告に対し、三井物産ワラントの購入を再度勧めた。同原告は、購入を断ったが、第一審被告Y1は三井物件ワラントの投資対象としての有利性を強調した勧誘をし、同原告は、前記(二)のとおり、前年の一二月にジャーマニーファンドで五〇〇万円以上の利益を出していたこともあって、同被告の勧誘に負ける形で、同ワラントを一〇〇〇万円余りの価格で購入することを承諾した。

そして、同日、同原告が当時有していた東洋信託銀行の転換社債とトヨタ自工、安田火災、日本郵船の端株を売却して、三井物産ワラント四四単位を一〇〇八万六六一五円で購入した。

翌一三日、第一審被告会社は同原告に対し、「三井物産ワラント五〇〇〇ドル、数量四四、単価三一・五〇パーセント、償還日平成五年一月二二日」等の記載のある取引報告書(甲イ四の1)を送付した。

(甲イ四の1、乙イ三、九、第一審原告X1本人)

② (証拠判断)

第一審被告Y1本人は、平成二年一月一一日夕方、第一審原告X1の自宅に電話して三井物産ワラントの購入を勧誘し、同原告は、「ワラントは危険が大きいものと聞いている。」等と言って渋っていたが、同被告がワラントの特質について詳しく説明するなどして勧誘した結果、同ワラント一〇〇〇万円余りの購入を承諾したこと、翌一二日午前九時ころ、同ワラントの正確な単価を確認したうえで、再び同原告方に電話し、確認を得たことを供述している。

しかしながら、以下のような点を総合すると、右供述を採用することはできない。

イ 同被告は、一二日に再度電話した理由について、前日の夕方時点では、ワラントの正確な単価が分からないので、正確な単価が分かった時点でもう一度連絡を入れてみようということである、当時の外貨建ワラントの商いの時刻は正確には決まっていなかったが、翌朝の日本市場のマーケットがオープンするのは午前九時からなので、その前後に再度連絡するというのが通常の約定形態であると供述する。

そして、第一審被告らは、当審において、次のように主張する。すなわち、外貨建ワラント取引は、証券会社と顧客との間の相対取引であり、第一審被告会社と顧客との間のワラントの取引時間帯は、同被告において独自に定めている。取引価格は、ワラントの業者間取引が行われている時間帯については、その値動きに合わせて動くことになるが、それ以外の時間帯においては、業者間取引の時間帯での価格をベースに第一審被告会社において毎日決定している。平成二年当時の第一審被告会社における外貨建ワラントの取引時間帯については、資料が残っていないが、現在実施されている時間帯(前場九時一五分~一一時五分、後場一二時四五分~一六時一五分、三場一六時一五分~一六時四五分)と同様であると思料される。ただ、この時間帯もあくまで便宜上のものであって、これら以外の時間帯であっても、ワラント担当者が就業可能であれば、顧客との相対取引は成立する。したがって、午前九時ころであれば、平成二年当時でも取引は可能であった。

しかしながら、約定前日の一一日夕方に第一審原告X1がワラント購入を承諾したのであれば、三場の価格により何故約定成立としなかったのかとの疑問がある。ワラント担当者(ワラント価格の情報を提供できる者)が夕方に在社していなかったとも考え難い。したがって、前日夕方において取引ができなかった理由の説明がないといわざるを得ない。また、翌日九時の取引では、結局、前日三場の価格を基礎とせざるを得ないのであるから、翌日九時まで待って再度確認する意味がどこにあるのかとの疑問もある。

ロ 第一審被告Y1本人は、第一審原告X1には電話で勧誘することが多く、電話は、通常同原告が会社にいる午前一一時前後から午後二、三時ころか、自宅にいる夕方五時以降にしていたことを供述している。これに右イの説示を総合すれば、翌一二日午前中に電話をするとした場合も、第一審原告X1本人が供述するように、午前一一時ころa社に電話したとする方が自然である。

ハ 第一審被告Y1本人は、第一審原告X1に対し、一一日に電話で、ワラントは新株引受権付社債から分離されたもので、ワラント取引はその新株引受権の売買であること、ワラントは一定の期間である権利行使期間内に一定の価格である権利行使価格をもって発行企業の新株を引き受ける権利であること、ワラント価格は株価の上下の動きに連動し、より大きく動くギアリング効果があること、権利行使期限を過ぎると経済的な価値がなくなること、三井物産ワラントは外貨建ワラントであり、為替変動の影響も受けること、ワラント価格は額面に対するパーセンテージで表され、それをポイントという用語で表示すること、当日の三井物産の株価は一三二〇円であり、三井物産ワラントの権利行使価格は一一三八円であること、同ワラントの権利行使期限は平成五年一月二二日であること等を説明し、約二、三〇分電話で話したことを供述している。

しかし、ワラントは危険なものと聞いているとして購入を渋っている第一審原告X1に対し、二〇分以上の時間をかけてワラントの特質を具体的に説明したとする右供述は採用し難い。同原告は、ワラント購入を渋っていたのであるから、ワラントの特質の説明を熱心に聞く態度ではなかったと考えられ、そうとすれば、二〇分以上もそのような説明を聞いていたものとは認め難い。また、当時第一審被告会社にはワラント取引に関する説明書が存在した(弁論の全趣旨)ところ、第一審被告Y1は、右説明書を予め持参して同原告に説明することも可能であり、あるいは、同原告は一定の理解力を有していると考えられたから、少なくとも右説明書を交付しておくことは可能であったと考えられるにもかかわらず、右説明書の交付もしないまま、電話でワラント購入を勧めたことからすると、同被告がワラントについて詳細な説明を同原告にするつもりであったとも認め難い。

したがって、第一審被告Y1本人の右供述は採用できず、むしろ、第一審原告X1本人の供述の方を採用するべきである。前記(一)及び(二)で認定した事実によれば、同原告はある程度自己の判断で投資活動をしていた者と認められるが、このような者であっても、有利性を強調した勧誘に結局は折れる形で購入を承諾することはあり得るものと考えられるし、後日に後記説明書の交付を受けるなどした際に同原告は格別ワラントについての説明不足に異議を唱えていないことが認められるが、同原告がその購入を承諾したものである以上、不自然であるとまではいえない。

もっとも、同原告本人の供述では、ワラントは転換社債と同じようなものであると説明されただけで、概括的な説明もなかったとされているが、第一審被告Y1が、一定の理解力はあると考えられる同原告に対し、転換社債と同じようなものであるとの説明しかしなかったとは考え難く、概括的な説明はしたものと認めるのが相当である。しかし、以上の認定、説示によれば、同原告が右説明により、ワラントの特質や危険性について具体的に把握できたとは認められない。

(2)① 平成二年一月二四日、第一審被告Y1は、a社に第一審原告X1を訪ね、同原告に対し、ワラントの概要、定義、行使期間を経過すると経済的価値がなくなること、外貨建ワラントには為替リスクがあること、ワラントの行使価格とその価値及び理論価格(バリティー)、ワラントの流通価格と株価との関係、ハイリスク、ハイリターンであること、ワラントの市場価格とプレミアム、ワラント投資の方法(店頭取引であることを含む)、ワラント取引と税金、売買手数料相当額について、いずれも具体的な説明を記載したワラント取引説明書(乙イ六とほぼ同様のもの)を交付して、これに基づき説明をした。

その際、第一審原告X1は、何ら異議も唱えず、右説明書末尾にミシン目で綴じられている「ワラント取引に関する確認書」(乙イ七)に署名捺印して提出した。また、同月二六日、同原告は第一審被告会社から、「コウシキゲン5・1・22」の記載があるワラントの預り証の交付を受けた。

(乙イ六、七、九、一七、第一審被告Y1本人)

② (証拠判断)

第一審原告X1本人は、第一審被告会社から説明書の交付を受けたことはないし、交付の際に説明書に基づき説明を受けたこともないと供述しているが、乙イ七には、「私は、貴社から受領したワラント取引に関する説明書の内容を確認し」と、見やすい位置に読み取りやすい大きさの文字で記載されており、同原告はこれに署名捺印したことを認めているのであるから、同原告の経歴や経験に照らせば、右記載どおりであることを確認したものと認めるほかない。したがって、この点については、第一審被告Y1本人の供述を採用できる。同被告は、説明書を持参し交付した際には、その供述どおり、これに基づく説明はしたものと認めるのが相当である。

(3)① 第一審原告X1は、平成二年一月五日にa社名義でジーメンス株(ドイツ株)を買い付けて以降、その価格が新聞にもファミコントレードにも掲載されないため、ファクシミリによってその価格を連絡するよう第一審被告会社に依頼し、第一審被告Y1はこれを履行してきた。そして、同原告は、同月一二日にワラントを買い付けた後は、ワラント価格も新聞等に掲載されないことから、同じ用紙で連絡を受けてきた。

三井物産ワラントの価格は、同年三月ころにかけて急落し、その後やや回復した時期もあったが、同年七月ころには再び一三ポイント位まで下がった。第一審原告X1は、これ以上下がらないと考え、自らの判断でナンピン買いをすることとし、第一審被告Y1にも相談のうえ、同月二三日に売却したタンデムファンドの売却代金の一部を充てて、同月二五日、三井物産ワラント五〇単位を四六九万〇六二五円で購入した。

(甲イ一、八、乙イ一〇、一六、一七、一九、第一審原告X1本人、第一審被告Y1本人)

② (証拠判断)

なお、乙イ一一ないし一四、一五の1ないし3によれば、第一審被告会社は第一審原告X1に対し、平成三年二月末日以降三か月ごとに、保有ワラントの時価を「外貨建ワラント時価評価のお知らせ」と題する書面によって通知してきたことが認められる。しかし、第一審被告らが主張するように、平成二年二月末日以降右通知をしてきたことは、これを裏付ける資料の提出がないから認めることができず、第一審被告Y1本人の供述からは右事実を認めるに足りない。

2  第一審原告X6関係

(一)  第一審原告X6の属性、投資経験等

第一審原告X6は、昭和六年生まれであり、c高等学校を卒業後、就職経験を持たないまま、d大学を卒業したC(以下「C」という。)と結婚した。Cは、e株式会社(以下「e社」という。)の経営者であり、第一審原告X6は、e社の名目上の取締役である。また、同原告は、X6家において所有しているマンションからの賃料収入を管理しており、X6家には右収入やe社の報酬等の資産があった。X6家の資産運用については、専ら第一審原告X6が行い、e社の資産運用についてはCが行っていた。なお、同原告の自宅とe社の本社事務所とは隣り合っている。

同原告は、三〇年程前、義兄の知人の外務員に勧められて、大阪屋証券で少しばかり株式を購入した経験があったが、しばらくして株式購入を止め、それ以降は昭和六一年の今回の取引まで株式購入は行っておらず、また、信用取引を行った経験は全くなかった。

他方、Cは、昭和五〇年代前半ころ、業者の口車に乗って金の海外先物取引を行い、数百万円の損失を被り、詐欺で警察に届出をしたことがあったが、証券取引の経験は従前は全くなかった。

(甲八九、甲ロ一、乙ロ一八、証人C、第一審原告X6本人)

(二)  取引経過等

(1) D晴(以下「D」という。)は、昭和五七年に第一審被告会社に入社し、神戸支店に営業課従業員として在籍していた者であるが、昭和六一年七月ころ、第一審原告X6が第一審被告会社に対し資料請求をしたことから、同原告宅を訪問した。Dは、同原告に対し、一〇〇〇万円位の資金によるポートフォリオ(複数銘柄の株式に分散投資をすることにより、リスクを軽減させるという投資理論に基づき、毎月又は二か月に一回、複数銘柄をパックで買い付けて運用するという投資商品)を勧めたところ、同原告は、八〇〇万円位で検討する旨返答し、結局同月一四日、同原告は、Dが勧めた四銘柄(呉羽化学等)を計八〇〇万六一〇七円で購入した。

その後、同原告は、Dの勧めにより、同年八月一一日に、右四銘柄を計八一三万四六〇一円で売却し、一二万八四九四円の利益を得、同日新たに六銘柄(鹿島建設等)の株式を計七三六万二四五七円で購入した。同原告は、Dの勧めにより、同年九月一〇日、右六銘柄を計八六四万九七八四円で売却し、一二八万七三二七円の利益を得、同日新たに五銘柄(大成建設等)の株式を計八五八万五四七二円で購入した。右購入資金には、主に賃貸マンションの収入を元に蓄積した資金が充てられた。

(甲ロ二、乙ロ一の1、一四、一八、証人D―第一回、第一審原告X6本人)

(2)① Dは、前項記載のポートフォリオ運用により利益が出ていることもあって、それ以外の取引も勧めてみることとし、昭和六一年八月二〇日、第一審原告X6宅において、同原告に対し、大成建設の転換社債五〇〇〇万円分の購入を勧めたところ、同原告は、e社でないと資金を調達できないと述べ、CをDに紹介した。そして、同日、e社は大成建設の転換社債を五〇〇〇万円分購入し、これにより、e社と第一審被告会社との取引が開始した。また、同日、第一審原告X6は、東京ガス二万株を一九六一万二五〇〇円で購入した。

その後、e社は、Dの勧めにより、第一審被告会社との間で、一度に四〇〇〇万円を超える取引を同年九月中に一〇回行ったのを初め、多額の取引を継続的に頻繁に行い、同年一〇月からはほぼ数千万円単位の信用取引も開始し、これを継続した。また、同年九月二四日、熊谷組の外貨建ワラントを五九九万四四五〇円で購入し、二日後に売却して一九五万三九九二円の利益を出し、その後も、同年一一月一三日に積水ハウスワラントを購入し、同年一二月一〇日に売却して一六万円程の損失を被るなど、数度にわたってワラント取引を行った。右ワラント取引の際、DはCに対し、ワラントの概略の説明をした。なお、Dは、同年夏ころからワラントの顧客への勧誘を始めたが、このころまでに三回にわたり計三時間位の勉強会でワラントの学習をしていた。

他方、第一審原告X6は、同年一二月までの間に、前記ポートフォリオ運用による株取引のほかにも、転換社債の取引を行うなどした。右転換社債は、同原告が買い付けた株が一時的に値下がりしたような場合に、Dに対し、新発の転換社債を希望したため、Dがその要望に応じて勧めたものであり、同原告は、転換社債について一応の理解はあり、安全なものであると認識していて、右投資のために、預金を担保に銀行から一〇〇〇万円を借り入れたこともあった。そして、同原告は、慎重な性格で、自ら取引銘柄を指定したりするようなことはなく、Dの勧めるまま証券取引を進めていた。

同原告は、e社と第一審被告会社との間の証券取引については、あまり把握しておらず、e社が信用取引やワラント取引を開始したことは知らなかった。Cも、同原告と第一審被告会社との証券取引については、十分な認識がなく、また積極的に知ろうともしなかった。これらの事情については、第一審被告会社の担当者らにも認識可能であった。

(甲八九、甲ロ一、二、四、六、二二、乙ロ九、一〇、一六ないし一八、証人D―第一、二回、証人C第一審原告X6本人)

② (証拠判断)

第一審原告X6は、同原告がCをDに紹介したことがe社と第一審被告会社との取引開始の契機となったものではないと主張し、同原告本人もそのように供述している。しかし、証人Cのこの点に関する供述は、結局、e社の取引開始の事情の記憶はないというものであること等に照らすと、証人Dの証言を採用するのが相当であるというべきである。

また、第一審被告会社は、第一審原告X6、C及びe社の関係等に照らせば、同原告はe社の取引内容を知っていたはずであると主張しているが、右主張は単なる推測に過ぎず、夫婦間で、個人資産の運用管理は妻が、会社関係のそれは夫が担当することとし、お互いに相手の運用管理には深く干渉しないということも十分あり得るところであると考えられるし、右主張事実を認めるに足りる的確な証拠もない。

(三)  ワラント取引における勧誘及び説明内容等

(1)① 昭和六二年一月から同年三月にかけて、第一審原告X6はDに対し、新発の転換社債の配分を希望していたが、Dは、それに代わるものとして、投資効率と銘柄がよいと考えられる神戸製鋼所ワラントを勧めることとした。当時の全体の相場状況は好調であり、神戸製鋼所ワラントについても、Dは、利益が出やすく儲かるという予測をしていた。

そして、Dは、同年三月四日、第一審原告X6に電話をして、同原告に対し、「儲かるものがありますから、ちょっとやりませんか。」といって神戸製鋼所ワラントを勧めた。同日、Dは、同原告宅を訪れ、同原告に対し、ワラントというのは新株を引き受けることができる権利であること、ハイリスク、ハイリターンで、株と対比すると三倍程度の値動きの激しさがあること、行使期限が過ぎると無価値になること、外貨建であるので為替リスクがあること、価格が新聞に掲載されないので第一審被告会社に電話で聞いてほしいこと等、ワラントについての概略的な説明を口頭でした後、引き続いて神戸製鋼所ワラントの投資対象としての有利性を強調して勧誘した。しかし、Dは、ワラントとはどのような仕組なのか、権利行使価格とは何か、それと株価変動との関係、権利行使期間とワラント価格との関係の詳細など、ワラント価格変動の仕組とリスクの内容、これらが神戸製鋼所ワラントについてどうなのかについては説明しなかった。当時、同原告は、ワラントについての基礎知識を有していなかった。Dは、当時顧客用の説明資料が第一審被告会社になかったこともあって、右の説明は口頭のみによった。その結果、同原告は、右ワラントの投資対象としての有利性の印象が強く残り、特に質問等はせず、右ワラントを購入することとした。

第一審被告会社は、ワラントの取引開始基準として、女性による取引を原則として禁止することとしていたため、Dは同原告に対し、夫のC名義による取引を勧めていた。もっとも、Dは同原告に対し、女性によるワラント取引が禁止されている理由について説明はしなかった。これに対し、同原告は、息子のB名義で取引することを提案し、同人名義で神戸製鋼所ワラントを購入することになり、二〇単位を九四四万二〇九五円で購入した。同原告は、同月六日、Dの勧めにより、右ワラントを売却し、一〇〇万五九六八円の利益を得た後である、同月九日、総合取引申込書(乙ロ四)をB名義で作成して、第一審被告会社に提出した。

同年四月末ころ、同原告が購入していた証券を、Cがe社の信用取引の代用証券に振り替えたことから、同原告は、e社が信用取引をしていたことを初めて知った。同原告は、信用取引を非常に危険なものであると認識し、これを嫌悪していたことと、X6家の財産を会社の財産に流用されたことから、激怒してCに対し、「会社を潰す気か。」などといって、同人と大喧嘩するに至った。同原告はCに対し、信用取引をやめるように迫ったが、その後もe社は信用取引を継続し、この喧嘩の後は、Cの方から証券取引の話をほとんどしないようになった。

その後、同原告は、Dの勧誘により、B名義で、原判決添付別紙原告X6ワラント取引一覧表2ないし6記載のとおりのワラント取引を行った。

また、同原告は、森精機ワラントを購入した同年一〇月七日ころ、第一審被告会社から、前記1(三)(2)①記載のワラント取引説明書とほぼ同内容の記載のあるワラント取引説明書(乙ロ七)の送付を受け、その末尾に綴じ込まれた「ワラント取引に関する確認書」(乙ロ八)にB名義で署名捺印して、第一審被告会社に送付した。また、右に先立つ同年九月八日、e社も、右とほぼ同じ内容の説明書(乙ロ一二)を受取った。なお、第一審被告会社が顧客に交付するためのワラント取引説明書を作成したのは、同年九月ころのことである。

(甲八九、甲ロ一、乙ロ四、六ないし一五、一八、証人D―第一回、同C、第一審原告X6本人)

② (証拠判断)

第一審原告X6本人は、右ワラント購入の経緯につき、Dから、電話で勧められて購入したのであり、説明内容については、ワラントという商品名すら明らかにされていなかったと供述している。しかし、証券会社の営業担当者が商品名すら明らかにしないで購入を勧めることは想定し難いし、転換社債については一定の理解を有し、新発の転換社債を要求するなどしていた同原告が一〇〇〇万円近い金額の投資を行うに際して、その商品名の確認すらしないことも考え難いうえ、同原告の陳述書(甲ロ一)には、ワラントという商品名は明らかにされていたという趣旨に読み取れる部分があり、さらに、取引の当初にDから新聞に値段が載っていない旨の説明を受けたことを認めている部分があることに照らして、採用できない。そして、同原告がB名義で作成した外国証券取引口座設定約諾書(乙ロ六)の日付が昭和六二年三月四日となっていることからすれば、証人Dが供述するように、同日に同人が同原告に直接会ったものと考えるのが自然である。

同原告は、ワラント取引説明書を受け取っていないと主張し、同原告本人も、確認書(乙ロ八)一枚のみが送付されてきただけで、説明書は受け取っていないと供述している。しかし、確認書には、「私は、貴社から受領したワラント取引に関する説明書の内容を確認し」と、見やすい位置に読み取りやすい大きさの文字で記載されており、同原告はこれにB名義で署名捺印したことを認めているのであるから、同原告の経歴や経験に照らせば、右記載どおりであることを確認したものと認めるほかない。同原告は、右に関して、確認書の署名欄に予め鉛筆書きがなされているが、説明書に綴じ込まれた確認書に第一審被告会社側で右のような鉛筆書きをして送付するというのは不自然であり、確認書のみが切り離されて送付されたことに間違いはないと主張しているが、説明書に綴じ込まれた確認書に予め鉛筆書きをして送付することが不自然であるとは考えられない。また、同じ時期に徴求された確認書であるのに、同原告のものとe社のもの(乙ロ一三)とでは書式が異なるのは不自然であるとの主張もしているが、時期が約一か月異なるし、法人と個人との違いもあるから、一概に不自然であるとまではいえない。

一方、第一審被告会社は、Dは同原告に対し、昭和六二年三月四日、ワラントの理論価格の算出公式を示すなどして分かりやすく説明し、同原告はワラントの特性等について理解したと主張し、証人D(乙ロ三五を含む)も同趣旨の供述をしているが、第一審原告X6本人に照らすと、Dが右のような懇切丁寧な説明をし、その結果、同原告が理解したとも、理解したことをDに示したとも認めらず、かえって、同原告は、ワラントの有利性についての印象のみが強く残ったものと認められる。

(2) 平成元年五月、第一審原告X6の担当者がDからE(以下「E」という。)に交代し、EとDは、同原告及びCに引継ぎの挨拶に行った。この際、同原告からEに対し、X6家のことは同原告に、e社のことはCに連絡するようにとの話があり、Dに対しては、「手数料をたくさんとって」という苦情が出された。Eは、Dから、同原告は、損益に厳しく、文句の電話をかけてきたりするので注意すること、また、比較的利益の出やすい商品を希望してくる顧客ではあるが、e社との間では大きな取引をしているので、ないがしろにせずに、できるだけ希望に添うようにした方がよいといった引継ぎを受けた。

同原告は、Eの勧誘により、B名義で、平成元年六月七日にニチレイワラントを購入するなど、原判決添付別紙原告X6ワラント取引一覧表7ないし11のとおりの取引を行った。そして、同年一一月一日、Eは、第一審被告会社神戸支店で力を入れて勧誘していた東急不動産ワラントを同原告に勧め、同日、同原告はこれを購入した。また、Eは、同年一二月一三日、「上場日に売却してはどうか。」などといって、大阪ガスワラントを勧誘し、同日、同原告はこれを購入した。Eは、このころは、電話で頻繁に同原告にワラント価格を連絡していた。なお、e社は、同年一二月ころを最後に、Eが勧誘しても、第一審被告会社との間で新規の取引をほとんど行わなくなった。

(乙ロ一ないし一八、証人D―第一回、同E、同C)

(3)① 平成二年に入ってから、第一審原告X6は、自らの判断で新規の証券取引をしなかった。このころは、同原告の手持ちのワラントは大きく値下がりしており、同年二月末日以降三か月ごとに第一審被告会社から同原告に送付されるようになった「外貨建ワラント時価評価のお知らせ」によっても、同原告はこれを確認できた。右書類の裏面には、ワラントの意味、価格、価格変動及び危険性等について概括的な解説、説明が記載されている。

そして、同原告は、同年八月半ばころ、第一審被告会社に、ワラント価格が下落したことについて苦情を申し入れた。Eは、上司の神戸支店営業課長F(以下「F」という。)とともに同原告宅を訪れ、同原告に対し、ワラントが値下がりしている理由やワラント取引のリスク等について、長時間にわたり説明して理解を得ようとした。

Eは、同月二七日、Fとともに同原告宅を訪れ、C同席の下で、同原告に富士通ワラントを勧めた。その際、同原告は、「一〇〇パーセント儲かるのか。」などと質問したが、Fは、「一〇〇パーセントということはあり得ないが、新発なので自信がある。」などと答え、その結果、同原告は同日これを購入することとした。

次いで、Eは、同年九月七日、Fとともに同原告宅を訪れ、同原告に、富士通ワラントと同様にその有利性を強調してイトマンワラントを勧め、翌八日、同原告はこれを購入した。その後、同月九日及び一六日、日本経済新聞に、イトマンに過大な不動産投資という問題があることが掲載され、イトマンワラントの値段は下落した。

(甲ロ一九、二〇、乙イ一五の1ないし3、乙ロ一五、一九、二〇、二二ないし二九、証人E、同F、第一審原告X6本人)

② (証拠判断)

第一審原告X6は、平成二年八月半ばころに、Eらが同原告にワラント取引のリスク等について説明を受けたことはないと主張している。しかし、同原告本人も、イトマンワラント購入の際にFから長時間説明を受けたと供述しており、時期が若干異なるもののこのころ説明を受けたこと自体は認めていると解されるし、ワラント価格が下落している時期にワラント購入を勧める以上、再度ワラントの説明をすることも自然であると考えられること等からすれば、①のとおり認定することができるというべきである。

もっとも、イトマンワラントは新発のワラントであり、同ワラントの権利行使価格は一二八二円であったが、同年九月六日のイトマンの株価(終値)は一二二〇円であったから、株価が上昇しない限り右ワラントはいずれ紙屑同然となる運命にあった(甲ロ一八、二一、証人E)ところ、証人E、同Fによっても、同人らが右の点について同原告に具体的に説明した事実は認められないし、同原告がこうしたことを理解のうえ購入したことも認められないから、平成二年八月ころの説明にもかかわらず、同原告はワラント取引の危険性について正確に理解していたとは認められない。

また、証人E、同Fは、イトマンワラントを同原告が購入した直後に四〇万円程利益が出る状況になったことがあり、その際同原告に売却の打診をしたが、同原告は売却の決断をしなかったとする供述をしているが、具体的な証拠はないうえ、購入二日後の九月九日にイトマンの過大な不動産投資について新聞記事が掲載されるという状況の下で、同ワラントが値上がりしたという供述を信用することはできず、右供述は採用できない。

3  第一審原告X7関係

(一)  第一審原告X7の属性、投資経験等

第一審原告X7は、昭和四年生まれであり、f株式会社(以下「f社」という。)の従業員であった昭和五二年、熔鉱炉の築造等を業とする株式会社g(以下「g社」という。)に出向し、取締役総務部長として同社の経理を含む総務部門を担当し、その後昭和五九年にf社を退職した後も、g社に平成元年一一月まで勤務した。同原告は、g社を退職後、h株式会社に入社し、平成三年二月末まで勤務し、その後は貸保管倉庫業を自営している。同原告は、f社に三二年間勤め、g社に出向する前の一〇年余りの間は、支店長の地位にあった。

また、同原告は、g社の代表取締役社長であったGが代表取締役を務め、G家の資産を運用するための会社である有限会社i社(以下「i社」という。)の経理を含む総務部門を、昭和六〇年ころから担当していた。

同原告は、g社に勤務していた昭和五五年一〇月、第一審被告会社姫路支店との間で、株取引を初めて行い、その後昭和六〇年ころまでは、国債を三回購入したほかは、株取引を一度行っただけであった。

同原告は、昭和五九年にf社を退職した際、約二一〇〇万円の退職金を受領したが、右退職金は、後記(二)及び(三)の同原告の証券取引の資金に充てられた。

(甲ハ一、第一審原告X7本人)

(二)  取引経過等

(1) 第一審原告X7がg社及びi社の経理部門を含む総務担当者として証券取引にも関与していた昭和六一年六月ころ、第一審被告会社姫路支店の営業課長H(以下「H」という。)は、g社を訪問し、同原告に会った。そして、同年八月一四日、Hの勧誘により、三菱重工の転換社債を、i社が一〇〇万円、同原告個人が一〇〇万円、それぞれ購入し、H担当の、i社及び同原告個人との取引が始まった。同原告は、Hの勧誘により、同年一一月一八日、東海リース株を一一〇万円で購入し、同年一二月一日に売却して二七万五六〇〇円の利益を上げた。また、昭和六二年二月からは、Hの勧誘により、第一審被告会社とg社との取引も増え始めた。

第一審被告会社との間で、i社は昭和六一年一二月一〇日、第一審原告X7は昭和六二年六月一七日、g社は同年七月二七日、外国証券取引口座設定約諾書を取り交わした。

同年七月二〇日ころ、Hは同原告に対し、日本信販ワラントを勧め、その結果、g社は、同月二二日、同ワラントを六三五万八八〇〇円で購入した。

その後、第一審原告X7個人は、主にHの勧誘により、同年一二月ころまでの間に、現物株式、投資信託、転換社債等の取引を行った。

同原告は、同年一二月一五日、g社及びi社の、第一審被告会社との間における有価証券取引代理人となった。

なお、i社は、第一審被告会社神戸支店において、昭和六一年五月ころ、ロームワラントを購入していたが、ロームワラントも含めた同支店の預かり資産は、昭和六三年一一月三〇日、第一審被告会社姫路支店に移転された。

(乙ハ三ないし七、一五、一六、一八、証人H、第一審原告X7本人)

(2) (証拠判断)

第一審原告X7は、g社及びi社と第一審被告会社との間の取引について、自分には決済権限がなく、実質的にこれに関与したことはないし、g社の日本信販ワラントの購入にも関与していないと主張し、同原告本人もこれに沿う供述をしている。しかし、右供述を裏付けるに足りる証拠はなく、同原告が右両社の有価証券取引代理人となったことや経理部門を含む総務担当者であったことからすれば、右両社の有価証券取引に実質的に関与しなかったとは考え難いうえ、この点に関する証人Hの供述が具体的であり、同原告本人に比べて信用できると考えられる。したがって、同原告本人の右供述は採用できない。

(三)  ワラント取引における勧誘及び説明内容等

(1)① 第一審原告X7は、昭和六一年七月ころ、g社を訪れたHに対し、第一審被告会社で購入したロームワラントが値下がりしていることについて、その処理をどうすればよいか相談した。Hは、ワラントの行使期限、行使価格等についてその概要を説明し、ロームワラントについて調査したうえ、数日後、同原告に対し、同ワラントは三割程値下がりしているが、行使期限までまだ間があるのでしばらく様子を見たらどうかと助言した。

(乙ハ一八、証人H)

② (証拠判断)

第一審原告X7本人は、ロームワラントについて、Hに相談したりした記憶はなく、ロームがワラントであるとの認識もなかった旨供述している。しかし、同原告本人も、i社がロームという銘柄の証券を持っているとの認識があり、Hとの間でロームが話題に上ったことは認めていること、同ワラントの購入に同原告は関与していないが、同原告はi社の経理担当者として、同ワラントを含むi社の証券取引全般についてこれを把握し、その適切な運用に努力すべき立場にあったと考えられ、そうとすれば、ロームワラントの値動きについてHに相談することも不自然ではないことからすれば、証人Hの証言を採用するのが相当である。しかし、同証人の供述の中には、ロームワラントについて相談された際、同原告に対し、ワラントについてその危険性を強調して相当詳しく説明したとの部分があるが、単に購入済みのワラントの一銘柄の処理について相談されただけであるのに、ワラント一般について詳しい説明をする必然性があるとは考え難いから、同部分は採用できない。

(2) 前記(二)のとおり、昭和六二年七月二〇日ころ、g社は日本信販ワラントを購入したが、その勧誘の際、Hは第一審原告X7に対し、右ワラントの行使価格、行使期限、単価、為替等を説明した。

(乙ハ一八、証人H)

(3)① Hは、昭和六二年一二月二〇日ころ、第一審原告X7に対し、電話で住友建設ワラントの購入を勧めた。同原告は、右ワラントの単価が高いという理由で最初は躊躇していたが、Hが、ワラントは単価が高い方が株価との連動性が高くて資金効率もよいなどと、その有利性を強調して勧誘したところ、同原告は納得して、同日、これを二八〇万九七七〇円で購入した。

(乙ハ一八、二〇、証人H)

② (証拠判断)

第一審原告X7本人は、住友建設ワラントについて、ワラントであることすら知らなかったと供述するが、Hがg社及びi社の証券取引担当者でもある同原告に対し、商品名を明示しないで勧誘するとは考え難いことに加えて、昭和六三年八月三一日に第一審被告会社に送付された同原告の署名捺印のある預かり証券及び金銭の照会に対する回答書(乙ハ二〇)には、「スミトモケンセツワラント、数量一二ワラント」という記載があり、同原告はこれを確認したうえで異議を唱えることもなく第一審被告会社に送付したと認められることに照らせば、同原告の供述は採用できない。

(4)① 第一審原告X7は、昭和六三年二月一五日ころ、第一審被告会社より送付を受けたワラント取引説明書(乙ハ八)の末尾に綴じ込まれた「ワラント取引に関する確認書」(乙ハ九)に署名捺印して、第一審被告会社に送付した。右説明書の内容は、前記1(三)(2)①記載のワラント取引説明書とほぼ同内容である。

(乙ハ八、九、証人H)

② (証拠判断)

第一審原告X7本人は、右の時期に右説明書の交付を受けた事実はなく、確認書に署名捺印したのは平成三年一一月二〇日のことであると供述しているが、後記(8)で説示するように採用できない。

また、同原告は、Hが担当者であった間、同人に対し、何度もワラントの説明書を持ってくるように要求したが、その都度言を左右にされ、結局説明書の交付を受けることがなかったとも供述しているが、Hが顧客の度重なる要求に応えることがなかったとは常識的に考え難く、採用できない。

(5) 昭和六三年一一月三〇日以降、第一審原告X7は、Hの勧誘により、原判決添付別紙原告X7ワラント取引一覧表2ないし5記載のとおりのワラント取引を行い、すべての取引において利益を出した。

(6)① 平成元年五月ころ、Hが姫路支店から転勤することとなり、後任の営業課長であるI(以下「I」という。)が、第一審原告X7、g社及びi社の担当者になった。

同原告は、Iの電話による勧誘により、同年八月一日以降、原判決添付別紙原告X7ワラント取引一覧表6ないし21記載のとおりのワラント取引を行った。このワラント取引は、同表記載のとおり、あるワラントの売却代金で次のワラントを購入する形で行われた。

第一審被告会社は、平成二年二月末ころから、同原告に対し、同原告保有のワラントに関する時価評価等を記載した「外貨建ワラント時価評価のお知らせ」と題する書面を送付するようになった。同書面の裏面には、前記2(三)(3)①で認定のとおりのワラントについての概括的な説明がある。

(甲ハ二、六の1ないし3、乙イ一五の1ないし3、証人I)

② (証拠判断)

第一審原告X7は、日商岩井ワラントの売却及び伊藤忠商事ワラントの購入は、同原告に無断でなされたものであると主張し、同原告本人もこれに沿う供述をしているが、以上の認定、説示のとおり、ワラントについて説明書も受領し、また、個人及びg社、i社の担当者として証券取引の経験を重ねてきた同原告に無断で取引がなされること自体想定し難いものであるうえ、同原告がその後も特段の異議を述べずに不二越ワラント等を購入したことや後記(8)で認定のとおり、平成三年一一月二〇日に伊藤忠商事ワラントも含む残高証明書(乙ハ一三)に署名捺印していることなどからすると、同原告本人の右供述は採用できない。

また、同原告本人は、Iから、神戸製鋼ワラントや日本酸素ワラントにつき、「必ず儲かる」などといわれて、手持ちのワラントを売却して乗換えるよう強く説得されたと供述しているが、Iが新たに勧める銘柄についてその有利性を強調した事実は推認できるものの、ワラントを含む証券取引について経験を有し、かつ、大和ハウス工業ワラント等について損失を出した経験も有する同原告に、Iが「必ず儲かる」といって勧誘することは考え難く、右供述も採用できない。

(7)① 平成三年七月一九日、Iは第一審原告X7に対し、電話でグラフテックワラントの購入を勧誘し、権利行使価格等を伝えた。しかし、グラフテックの当時の株価や過去の動き、今後の見通し、その根拠等を具体的に説明して推奨したものではなかった。同原告は、それまでのワラント取引により生じた損失を補填する趣旨でIが勧めてくれているものと考え、特に質問もしないで、第一審被告会社に預けていた株式を売却して、右ワラントを三一四万七四六二円で売却した。

なお、右ワラントの権利行使期限は平成六年一月一八日であり、購入時の株価は一九六〇円、権利行使価格は三七六〇円であって、第一審被告会社は同原告に七ポイントで売却したものであるが、同ワラントのパリティはマイナス四九・四四ポイント、プレミアムは五六・四四ポイントであった。

(甲ハ一、四の4、五の4、七、八、証人I、第一審原告X7本人)

② (証拠判断)

第一審原告X7本人は、右ワラントの勧誘の際にも、「短期間で必ず儲かるのがある。」と断定的判断の提供を受けたことを供述しているが、同原告保有のワラントに相当高額の評価損が出ていたこの時期(甲ハ六の1参照)にIが勧誘する以上、グラフテックワラントの有利性を強調したものとは考えられるが、前記(6)②で説示したところによれば、Iが断定的判断を提供したとまでは認められない。

(8)① 平成三年一一月ころ、第一審被告会社は、第一審原告X7に対し、社団法人日本証券業協会及び第一審被告会社作成の「外国新株引受権証券(外貨建ワラント)取引説明書」(甲ハ三)を送付した。

他方、Iは、同月に蒲田支店に転勤することになったため、同月二〇日、同原告に姫路支店に来てもらい、同原告に残高証明書(乙ハ一三)への署名捺印を求めた。その際、同原告は、保有するワラントが値下がりしていることについて苦情を述べたが、結局署名捺印をした。

(甲ハ三、乙ハ一三、証人I、第一審原告X7本人)

② (証拠判断)

第一審原告X7は、前記(4)①のワラント取引に関する確認書に署名捺印したのは平成三年一一月二〇日であり、右確認書を渡した相手もHではなくIであること及び右確認書に記載のあるワラント取引説明書とは乙ハ八ではなく甲ハ三のことであると思っていたと供述している。

しかし、右確認書(乙ハ九)の日付、送信月日、担当者印がいずれも昭和六三年二月一五日当時に作成されたものであることを示していること(担当者印につき、証人H)、右確認書の作成年月日欄には不動文字で「昭和」との記載がなされており、ワラント取引で損失が表面化していた平成三年一一月の時点で、同原告がこれを見落として確認書のみに署名捺印するとは考えられないこと、切取線があり、その大きさからしても甲ハ三には対応していない確認書を一枚だけ示されて、それに同原告が署名捺印することも想定し難いことに照らせば、同原告の右供述は採用できない。

同原告本人は、g社に在籍していた昭和六三年ころには乙ハ九になされているような署名はしておらず、乙ハ二や同六の書面になされているような署名をしていたと供述しているが、昭和六三年八月三一日に第一審被告会社に送付された書面(乙ハ二〇)には乙ハ九と同様の署名がなされており、右署名の相異は決め手とはならない。また、同原告は、具体的なワラント取引がなされたわけではない昭和六三年二月という時期に、説明書を送付したり確認書を徴求するのは不自然であるとも主張するが、証人Hによれば、この時期に第一審被告会社姫路支店では、ワラントの顧客に説明書を送付し、同顧客から確認書を徴求することとしたことが認められ、同原告の右主張も、認定を動かすには足りない。更に、同原告は、乙ハ九の社用欄の担当者押印欄に鉛筆で丸印が付してあるのは、後日に各担当者に送付して押印を得た証左であるとも主張している。右主張は、根拠に欠けるものであるとはいえないが、推測に過ぎず、以上の認定、説示を総合すれば、これを左右するものであるとまではいえない。

二  ワラントの特質について

次のとおり訂正、削除するほかは、原判決の理由(第三争点に対する判断)の二(原判決一〇四頁一行目から一一〇頁末行まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一一〇頁二、三行目の「ほぼ毎日のように」を削る。

2  同頁五、六行目の「原告X1及び原告X7は、平成二年の初めころから、」を「第一審原告X1は平成三年初めころから、同X6及び同X7は平成二年の初めころから、」と改める。

三  証券取引の勧誘における証券会社等の義務

原判決の理由(第三争点に対する判断)の三(原判決一一一頁一行目から一一六頁五行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

四  争点1(本件ワラント購入の勧誘行為は適合性の原則に違反し違法であったか否か)について

原判決の理由(第三争点に対する判断)の四(原判決一一六頁六行目から一二三頁五行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

ただし、原判決一二一頁六行目から一二二頁二行目までを、次のとおり改める。

「 しかし、第一審原告X6は女性であり、自ら取引銘柄を指定したりするようなことはなく、Dの勧めるまま証券取引を進めていたもので、証券取引に精通していたとまではいえない者であったのであるから、第一審被告会社において当時定められていた女性によるワラント取引の禁止という取引開始基準の例外と認めるに足りる事情はなかったものと解されるし、第一審被告会社において、特にこの点について留意していた形跡があるとは、証拠上窺えない。したがって、同原告にワラント取引を勧誘したことは、右の内部基準には従っていなかったことになるが、このことのみから、同原告に対する勧誘行為が直ちに違法になるとまで解することはできない。

ただし、このような属性をもつ同原告に対し、ワラント取引を勧誘するについては、その理解を十分得られるように、資料を用いるなどして懇切丁寧な説明がなされる必要があるというべきである。」

五  争点2(本件ワラント購入の勧誘行為は説明義務に違反し違法であったか否か)について

1  三で述べたとおり、証券会社やその使用人は、ワラントのような危険性の高い商品を勧誘する場合には、信義則上、特段の事情のない限り、当該商品の概要を説明した上で、投資者の職業、年齢、財産状態、投資経験、投資目的等の具体的状況に応じて、投資者が当該取引に伴う危険性について的確な認識を形成するに足りる情報を提供すべき注意義務(説明義務)を負う。

そして、二1で述べたワラントの特質、危険性に鑑みれば、権利行使価格と株価との関係、将来の株価の動向によるワラント価格の変動の仕組とリスクの内容、権利行使期間との関係等について、当該銘柄の個性に即して個別具体的に説明すべき義務があるものと解するのが相当である。右のような情報が提供されなければ、投資者としては、ワラントの投資対象商品としての特質を理解することはできないし、その危険性を具体的に理解することもできないと解される。また、以上で述べてきたところによれば、右の説明は、各投資者の属性や適合性の程度に応じて、その理解を得られるような方法でなされる必要がある。

なお、第一審原告らは、ワラント取引説明書及び確認書が取引に遅れて交付、徴求されている点が公正慣習規則に違反する旨主張しているが、右規則が説明書の交付及び確認書の徴求を求めているのは、説明が適切になされることを担保するためであると解される。したがって、これらが取引に遅れてなされたことは、その理由や事情の如何によっては説明義務が尽くされなかったことの徴憑となり得るということはできるが、遅れたという一事をもって、当然に説明義務違反の違法を認めるべきであるということはできない。

2  個別の検討

(一)  第一審原告X1関係

前記一1(三)(1)①で認定したところによれば、第一審被告Y1は第一審原告X1に対し、電話で、三井物産ワラントが外国証券であること等の概括的な説明をしただけで、ワラントの特質等について具体的説明はせず、同ワラントの購入を勧め、断られたが、その翌日に、再び電話で、会議中であった同原告に対し、右ワラントの投資対象としての有利性を強調した勧誘をし、同原告の承諾を得たもので、同被告が説明義務を怠ったことは明らかである。平成二年一月という時期には、第一審被告会社にもワラント取引説明書が存在し、確認書を徴求する取扱いがなされていたもので、第一審被告Y1には予め右説明書を同原告に交付できなかった事情があったとは証拠上認められないにもかかわらず、電話で最初のワラント取引を推奨するということ自体が不適切であり、しかも、当初は同原告が「ワラントは分からないからいらん。」と述べて拒絶したのであるから、説明書を持参してこれに基づき具体的な説明をなすべきであったというべきである。したがって、当初の三井物産ワラント取引における同被告の勧誘行為には、説明義務違反の違法があると認められる。

しかし、前記一1(三)(2)①で認定したように、同原告は同被告から、平成二年一月二四日に、ワラント取引説明書の交付を受けたうえ、直接同説明書に基づき具体的な説明を受けたものであり、同原告の属性や投資経験等に鑑みれば、同原告の理解が可能な方法、程度の説明がなされたものと認められる。したがって、同年七月二五日の三井物産ワラントの取引に関しては、説明義務違反の違法があるとは認められない。

(二)  第一審原告X6関係

前記一2(三)(1)①で認定したとおり、Dは第一審原告X6に対し、昭和六二年三月四日、面談のうえ直接、ワラントについての概略的な説明を口頭でしているが、資料等を用いて、同原告の理解を得られるような丁寧な説明をしたとは認められない。この当時、第一審被告会社には顧客に交付するワラント取引説明書が未だ作成されていなかったが、内部資料のコピー等の資料は準備できたはずであり、このような資料を用いるなどの工夫をこらして説明することは可能であったということができる。したがって、Dは、同原告の属性や適合性(前記一2(一))の程度に応じて、その理解が得られるような方法で懇切丁寧な説明をしたということはできず、前記一2(三)(1)②で認定、説示したように、同原告も、ワラントの有利性の印象のみが強く残り、ワラントの特性について理解したとも、理解したことをDに示したとも認められないから、Dの右勧誘行為には、説明義務違反の違法があると認められる。

その後も、同原告に対する適切な説明がなされないまま、同原告はワラント取引を数回繰り返し、昭和六二年一〇月にはワラント取引説明書の送付を受けたが、この際に、同説明書に基づき同原告に対し適切な説明がなされたとは証拠上認められないし、同原告が同説明書を精読してその内容を理解したとも認め難い。前記の同原告の属性などを考慮すると、単に説明書を交付するだけではなく、それを理解させる口頭の説明も必要であったというべきである。

前記一2(三)(2)及び(3)①で認定したように、担当者がEに交代した平成元年にも、同原告はワラント取引を繰り返し、このころはEからワラント価格の連絡を受けていたが、平成二年に入って、同原告は、手持ちのワラントの価格が大きく下落し、自らの判断で新規の取引を中止していた。そして、同年二月末からは、第一審被告会社から送付される「外貨建ワラント時価評価のお知らせ」によってもワラントの価格動向を確認できたし、その裏面にはワラントの概括的な解説、説明が記載されていた。さらに、同年八月には、同原告はFからワラント取引のリスク等について長時間にわたり説明を受けた。以上のような経過から、同原告は、ワラントについて一定の理解は有するに至ったものと認められる。しかし、前記一2(三)(3)②で認定説示したとおり、イトマンワラントについて、同原告は、EやFが同銘柄の特性について具体的に説明しなかったこともあって、十分に理解しないまま購入を承諾したのであり、ワラント取引の危険性について正確な理解を有するに至っていたとまでは認められない。

以上によれば、同原告に対する第一審被告会社担当者らの勧誘行為には、全体として、説明義務違反の違法があったというべきである。当審における第一審被告会社の主張等に鑑み、検討してみても、以上の認定、判断は覆らない。

(三)  第一審原告X7関係

前記一3(一)及び(二)の認定、説示によれば、第一審原告X7は、f社の支店長を経験した者で、g社及びi社の有価証券取引代理人として、右両社の同取引にも関与しただけでなく、自らも株式取引を行っていたものであり、その経歴や投資経験等に照らすと、前記一3(三)(1)①のロームワラントについて相談した際に受けたワラントの概要の説明、同(2)のg社の日本信販ワラントの購入の経験、同(3)①の自らの住友建設ワラントの購入の経験を経て、同(4)①のワラント取引説明書の受領をし、これを読むことによりワラントの特性を理解するに足りる能力を有していたものと認められ、担当者のHがこうした経過の中で、同原告に対するワラントの説明を果たしたものと考えたとしても過失があるということはできない。したがって、同原告に対する関係で、第一審被告会社担当者らに説明義務違反の違法があったものとは認められない。

しかしながら、グラフテックワラントについては、前記一3(三)(7)①のとおり、平成三年七月一九日当時、株価が権利行使価格を一八〇〇円も下回っていたのであり、ワラントに投資する価値は、理論的には、将来株価がワラントの権利行使価格を上回ることを前提として成り立っているものと考えられる以上、右のように、株価が権利行使価格を大幅に下回っている状況の下で、そのことを知らせないまま、購入を推奨することには問題がある。当該銘柄について、具体的に推奨する根拠がある場合であれば、これを推奨すること自体が許されないということはできないが、その場合でも証券会社担当者は右の根拠を具体的に説明すべき義務があるというべきである。ところが、証人Iは、右のような根拠が存在したことについて具体的に供述できておらず、当然のことながら、その根拠を同原告に具体的に説明したことも述べていないし、同ワラントが右のような商品であることを具体的に説明したとも認め難い。したがって、グラフテックワラントの勧誘行為につき、少なくとも、当該銘柄の特性に関する説明義務を尽くさなかった違法があるというべきである。第一審被告会社は、同原告は短期間で売却して利益を上げることを目的としていたから、株価と権利行使価格との差が重要なのではなく、短期間のうちに株価の上昇、ひいては当該ワラント価格の上昇が見込まれれば足りる旨の主張をしているが、Iがグラフテックワラントという銘柄の商品について、短期間のうちに値上がりが見込めることの根拠を具体的に明らかにできているといえないことは、以上の説示から明らかであるから、採用できない。

六  争点3(本件ワラント購入の勧誘行為は断定的判断の提供に当たり違法であったか否か)について

原判決の理由(第三争点に対する判断)の六(原判決一五〇頁一〇行目から一五二頁末行まで)のとおりであるから、これを引用する。

ただし、原判決一五二頁六ないし九行目を削る。

七  争点4(本件ワラント購入の勧誘行為は押付販売、欺瞞的勧誘に当たり違法であったか否か)について

原判決の理由(第三争点に対する判断)の七(原判決一五三頁一行目から一五四頁五行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

八  争点5(本件ワラント購入の勧誘行為は回転売買(過当売買)に当たり違法であったか否か)について

原判決の理由(第三争点に対する判断)の八(原判決一五四頁六行目から一五七頁六行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

ただし、原判決一五五頁末行の「前記一」の次に「3」を加え、一五六頁六行目の「その取引」の前に「グラフテックワラントを除いては、」を加える。

九  争点6(本件ワラント購入の勧誘行為は過大なマークアップ・暴利行為に当たり違法であったか否か)について

原判決の理由(第三争点に対する判断)の九(原判決一五七頁七行目から一五八頁六行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

一〇  争点7(本件ワラント購入後、第一審被告らに、損害拡大の放置、助言義務違反として違法な点があったか否か)について

原判決の理由(第三争点に対する判断)の一〇(原判決一五八頁七行目から一六三頁二行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

ただし、原判決一五九頁六行目の「そもそも」から九行目の「ある上、」まで、同頁一〇行目の「ほぼ毎日のように」及び一六二頁六行目の「毎日のように」をいずれも削り、一五九頁末行の「二年」を「三年」に、一六〇頁三行目の「ほぼ毎日のように」を「頻繁に」にそれぞれ改め、一六一頁一〇行目の「三井物産ワラント」の前に「株価が八八一円、権利行使価格が一一三八円で、その差が二五七円に留まり、権利行使期限が平成五年一月二二日であった(甲イ九の2、乙イ一〇、一七)という」を加える。

一一  損害

1  第一審原告X1関係

(一)  前記四2(一)のとおり、平成二年一月一二日購入の三井物産ワラントにかかる勧誘行為は違法であり、第一審原告X1は、その結果、九二六万九四三五円(一〇〇八万六六一五円-一五六万〇〇七一円÷八四×四四)の損害を被ったと認められる。

(二)  過失相殺

右ワラントの勧誘は、具体的な説明もない態様でなされたものではあるが、同原告は、「ワラントは分からないからいらん」といって一旦は購入を断っていたのであり、同原告の経歴や投資経験等に照らせば、同原告はワラント取引の危険性について抽象的には認識していたものと推認される。にもかかわらず、当該商品について具体的説明も求めないまま安易に購入を承諾した点は、同原告の過失が損害発生に一定の影響を与えたと評価することができる。

そこで、右の点を考慮して、損害額から二割を減じるのが相当であり、第一審被告Y1は不法行為責任に基づき、第一審被告会社は使用者責任に基づき、七四一万五五四八円を賠償すべき義務がある。

(三)  弁護士費用

本件訴訟の性格等に鑑み、七〇万円をもって弁護士費用相当の損害と認める。

(四)  遅延損害金の起算日

不法行為に基づく損害賠償請求権が遅滞に陥るのは、損害発生時と解するのが相当である。したがって、右ワラントの売却日である平成三年五月三一日となる。

(五)  相続

以上の損害合計八一一万五五四八円の二分の一である四〇五万七七七四円につき控訴人X2が、各六分の一である各一三五万二五九一円を控訴人X3、同X4、同X5が相続により承継したこととなる。

2  第一審原告X6関係

(一)  前記四2(二)のとおり、第一審原告X6に対するワラント勧誘行為は全体として違法であり、その結果、同原告主張の原判決添付別紙原告X6ワラント取引一覧表3、4、10、12、13及び15の各取引により合計四六四〇万六〇五三円の損害が発生したものと認められる。しかしながら、同原告に対するワラント勧誘行為は全体として違法であるのであるから、右一覧表記載のその他の取引結果をも総合して、全体としての損害を算定するべきであると解するのが相当である。同原告は、右一覧表のその他の取引により合計六二一万二二四一円の利益を得ているから、これを控除した四〇一九万三八一二円をもって同原告の損害と認める。

(二)  過失相殺

同原告は、ワラント取引の当初にDから概略的な説明は受けたこと、右一覧表5の森精機ワラント取引のころに説明書も受取り、自ら資料に基づきワラントの特質について習得する機会を与えられたこと、平成二年には「外貨建ワラント時価評価のお知らせ」の裏面の記載によってもワラントの概略を習得する機会があったこと、同年八月にはFからもワラントのリスク等について説明を受けたこと等の事情があり、これらを総合すれば、同原告にはワラント取引の特質について習得する機会はあり、また、必ずしも同原告に右の特質を理解できる能力がなかったとまでは認め難いことに照らすと、同原告にも損害発生の責任の一端はあるというべきである。

そこで、同原告関係で認定してきた諸般の事実も考慮のうえ、損害額から五割を減じるのが相当であると認める。したがって、第一審被告会社は、使用者責任に基づき、二〇〇九万六九〇六円を賠償すべき義務がある。

(三)  弁護士費用

本件訴訟の性格等に鑑み、二〇〇万円をもって弁護士費用相当の損害と認める。

(四)  遅延損害金の起算日

前記のとおり、損害発生日をもって起算日とすべきであるところ、原判決添付別紙原告X6ワラント取引一覧表のとおり、同原告の損害発生及びその金額は、平成三年一二月三〇日の大阪ガスワラント及びイトマンワラントの売却により確定したから、同日をもって遅延損害金の起算日とするべきであると解される。

3  第一審原告X7関係

(一)  前記四2(三)のとおり、第一審原告X7に対するグラフテックワラントの勧誘行為は違法であり、同原告は、その結果三一四万七四六二円の損害を被ったと認められる。

(二)  過失相殺

同原告は、その経歴や投資経験に照らして、説明書等に基づきワラントの特質を十分理解することができたはずであり、グラフテックワラントのように株価が権利行使価格を大幅に下回っている銘柄のワラントについては、特にその危険性が高いことも認識することが可能であったと認められるところ、Iの勧誘が損失補填の趣旨であると考えて特に質問もしないままその購入を承諾したものであり、同原告がIに対し、右ワラントの株価と権利行使価格との関係や何故この時期に同ワラントを推奨するのかなどの点について質問をすることは可能であったのに、これをしなかったことが、損害発生に影響したものといえる。

そこで、Iが、右ワラントにつきマイナスパリティが大きいことを明確に伝えなかったと推認されることも考慮のうえ、右損害の五割を減ずるのが相当である。したがって、第一審被告会社は、使用者責任に基づき、一五七万三七三一円を賠償すべき義務がある。

(三)  弁護士費用

本件訴訟の性格等に鑑み、一五万円をもって弁護士費用相当の損害と認める。

(四)  遅延損害金の起算日

グラフテックワラントの権利行使期限は平成六年一月一八日であり、同日をもって右の損害発生が確定したといえるから、遅延損害金は同日から起算されるべきである。

一二  控訴人X2ら(第一審原告亡X1関係)の予備的請求について

右控訴人らの第一審被告会社に対する売買契約上の債務不履行に基づく損害賠償の予備的請求については、前記の第一審原告亡X1関係で同被告の使用者責任を認めた範囲を超えて、債務不履行に基づく責任が同被告にあるとは認められないことは、以上の認定、説示から明らかである。

一三  結論

以上のとおりであり、第一審原告亡X1関係の請求は、控訴人X2につき四〇五万七七七四円、控訴人X3、同X4及び同X5については各一三五万二五九一円及び右各金員に対する平成三年五月三一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、第一審原告X6の請求は、二二〇九万六九〇六円及びこれに対する平成三年一二月三〇日から支払済みまで右同利率による遅延損害金の支払を求める限度で、第一審原告X7の請求は、一七二万三七三一円及びこれに対する平成六年一月一八日から支払済みまで右同利率による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。よって、第一審原告らの控訴に基づき、原判決を主文のとおり変更し、第一審被告会社の本件控訴を棄却することとする。

(裁判長裁判官 井関正裕 裁判官 前坂光雄 裁判官 矢田廣髙)

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